リニューアボー 自然エネルギー政策研究所 Institute for Renewable Energy Policies

2013年12月の記事

訴訟・政党・映画を通じて脱原発を勝ち取る(河合弘之弁護士インタビュー)

聞き手を務める橘代表理事

福島原発事故から約3年が経ちました。今も、避難生活を余儀なくされている人々は14万人近くにのぼります。増え続ける汚染水問題、メルトスルーして格納容器の底に流れ落ちている核燃料(デブリ)の取り出し、被ばく労働者の劣悪な労働条件や労働環境、子どもたちの低線量被ばくによる健康問題などなど、解決の見通しがつかない課題が山積しています。
エネルギー基本計画で、原発を「重要なベースロード電源」と位置付けた安倍政権が前のめりに原発の再稼働を目指す中、脱原発(原発ゼロ)を勝ち取るにはどうしたらいいのか?福島原発告訴団弁護団長や脱原発弁護団全国連絡会共同代表を務め、全国の原発裁判に奔走する河合弁護士に当会代表理事の橘が聞きました。

 

橘:脱原発運動が本当に力を持つには、どうしたらいいと思いますか。

 

脱原発を熱く語る河合弁護士

河合:原発を止めるのに、これさえやれば大丈夫という特効薬のようなものはなく、いろいろな活動の合わせ技なのだろうと思います。ひとつは「訴訟」です。ハードルは非常に高いけれども、もし裁判で勝つことができれば強制措置で止められるから、ある意味実効性が高い。だから僕らはやっています。これまでは、原発の運転差し止め訴訟などではずっと原告側が負け続けてきました。でも、2011年の福島原発事故を受けて、裁判官の考え方も変わっているはずです。次に政治的・経済的なことを考えると、根本的なことを言えば政治勢力の変革です。とはいえ、僕らが政権を獲ることまで考える必要は必ずしもなくて、「政権を脱原発に変えればいい」ということでしょう。そのために、訴訟や裁判に関するマスコミの報道をはじめとした様々な方法を通じて原発の本当のリスクやコストを知ってもらい、日本国民の大多数が脱原発を望む状況にして、それを政府にわからせることが重要です。

 

橘:安倍政権は、民主党政権が2012年に決めた「2030年代までの原発ゼロ」をひっくり返して、今回の「エネルギー基本計画」で原発を「基盤となる重要なベース電源」と位置付けて再稼働を目指しています。わからせるのは難しいのでは?

日本記者クラブでの「原発ゼロ」会見

【脱原発を掲げる政党を】

河合:例えば、2016年の参院選に向けて脱原発運動などに関わっている人たちが、「脱原発」を第一綱領に掲げるシングルイシューの政党を作り、日本中の脱原発を望む人たちがそこに集中して投票するということをやってみせてはどうでしょう?一定の得票が集まれば、自民党であろうと尊重せざるを得ないと思います。小泉さんも高レベル放射性廃棄物の最終処分場問題から「脱原発(原発ゼロ)」を言い出したし、不可能ではないと思います。僕は300社近い中小企業の顧問弁護士をやっていますが、彼らが小泉さんの発言にすごく影響を受けていて、この発言を聞いて「やっぱり原発って危険だし、コストが高いしダメなんだ」って思った人が多いんですよ。

 

橘:「原子力ムラ」と闘っていて何を一番感じますか?

 

河合:その強大さ、強靭さかな。恐れ入っちゃうよね。本当に悪質で、目の前の利益にどん欲。国を危機にさらそうと、「そんなものはない」と言い張り、将来世代に負担を押し付けると言っても「それは先の話だ」と言う。『原発ホワイトアウト』はお読みになりましたか?福島原発事故の直後、放射能汚染による被害や事故の規模がまだどうなるかもわからないのに、すぐさま「なんとか再稼働しないと」という原発官僚の発想。その執拗さと不退転ぶり。だから最終的に止めるには、やっぱり政治を変えないと根本的には変わらないと思います。

 

原発30km圏外への避難にかかる時間

【世界最高水準の新規制基準】
あと恐いのは、世界最高水準の「新規制基準」で安全が確認されたものだけを再稼働するから大丈夫と言う(原子力ムラの)説明です。この議論はちゃんと粉砕しないといけない。一番問題なのは、以前あった「立地審査指針」をなくしちゃったことです。「重大事故が起きた場合のために、人がいっぱい住んでいるようなところに原発を作ってはいけません」と書いてあったのが、福島原発事故で(かなり広範囲に放射能が)飛び散っちゃったでしょ。だからこんなルールでは全部の原発がダメということになるから、気が付かないうちに取っちゃった。それに、この基準では同時多発故障がクリアーできていないんです。

事故後の福島第一原発(写真:朝日新聞)

津波が来たら、電線もパイプも配電盤も全部やられて何百か所も全部アウトになる。それでも大丈夫にしないと福島原発を乗り越えることにならないんだけど、それをやるとあまりにも金と時間がかかるから諦めちゃった。それと猶予期間を設けている問題。その間に地震や津波がきたらどうするの?とにかく早く再稼働させるための基準だから、そんなもの(新規制基準)は決して安全じゃない。しかも、福島原発の重要な教訓は、いざあのような重大事故が起きたらまともに避難できないということ。だから避難計画も原発安全指針の射程に入れなければならない。だけど新基準はそこを全部地方自治体に任せている。電力会社はその原発だけ見ればいいんだと。だから避難計画が必要なんだけれど、まともに実行可能な避難計画を立てているところはない。だから、新規制基準でもまったく安全じゃないんです。これが今の論争の最先端ですよね。

世界中で拡大を続ける自然エネルギー

【原発の大義名分はなくなった】

まあ現実を見れば2013年5月に福井県の高速増殖炉「もんじゅ」も運転が凍結され、六ケ所の再処理施設は完全に失敗するなど核燃料サイクル政策による「自己完結型永久エネルギー構想」はすでに破綻しているんです。一方で「自然エネルギー」こそ開放型永久エネルギーで無尽蔵だということは明白です。太陽光、風力、バイオマスも地熱もありますよね。それなのに一番金がかかって最も危険な原発を使う必要はない、原発の大義名分はなくなった、もう自然エネルギーの時代なんだともっと声を大にして言うべきなんです。

 

ドイツの再生可能エネルギー導入状況(ISEP)

橘:それは私たちに任せてください(笑)。あの寒いドイツでさえ、2012年前半で25%近くを自然エネルギーで賄い、2030年までに50%を目指していますよね。約40万人の雇用も生んでいます。言わば最大の成長産業なのですから。ところで今、原発をテーマに映画を撮られているとか。

 

河合:今回、自公政権が過半数を占めてしまったのは、国政選挙の時に「原発は止めた方がいんじゃないかな」と思っても、多くの人たちが「とりあえずの景気のため」とアベノミクスの自民党に投票しちゃったから。これを変えるには、「原発って本当に危ないから、止めた方がいい」と思ってもらうのに、ビジュアルで伝えるのが一番いいと思い立ったんです。『日本と原発』という映画で、来年の夏頃には完成する予定です。ぜひ、各地で上映していただきたいと思っています。

プロフィール:河合弘之(かわいひろゆき)

1944年生まれ。さくら共同法律事務所所長。東京大学法学部卒。M&A訴訟の草分け的なビジネス弁護士として活躍。故高木仁三郎氏を通じて反原発運動に出会う。現在、浜岡原発差し止め訴訟弁護団団長、大間原発運転差し止め訴訟弁護団共同代表、東電株主代表訴訟弁護団長、福島原発告訴団弁護団長、脱原発弁護団全国連絡会共同代表、脱原発法制定全国ネットワーク代表世話人として、全国の脱原発運動団体と協力して脱原発を実現するために奔走している。2014年早春公開予定の映画『日本と原発』を制作中。


プロフィール:橘民義(たちばなたみよし)
1951年生まれ。早稲田大学理工学部卒。元岡山県議会議員。一般社団法人自然エネルギー研究会 代表理事。著作に『民主党10年史』『菅直人の自然エネルギー論』など。

 

ドイツ緑の党連邦議会議員ジルビアさん「脱原発・オリーブの木構想」

 

菅元首相とジルビアさん

ドイツ緑の党ジルビアさん、橘、菅顧問

今年の12月に日本を訪れたドイツ緑の党連邦議会議員で原子力・環境政策責任者のジルビア・コッティング=ウールさん。ジルビアさんは、2011年の福島原発事故以来、現地に毎年足を運び続け、今回で4度目の来日となりました。今回の訪問では、ドイツの国会議員として、初めて東京電力福島第一原発のサイトを視察しました。また、脱原発に関わる多くの人々や日本の緑の党などと交流を持ち、最終日に当会代表理事の橘と顧問の菅直人とも意見交換の場を持ちました。

 

ジルビアさんとドイツ連邦共和国公使

ジルビア:日本における一連の選挙において、多くの国民が脱原発を望んでいるにも関わらず、原発推進を掲げる自民党が選挙に勝利したことを大変残念に思っています。今回、いろいろな方々とお目にかかりました。原子力市民委員会座長の船橋教授や国会事故調査委員会の黒川委員長。脱原発運動に関わってきた環境NGOの皆さん、超党派の国会議員による「原発ゼロの会」や緑の党のメンバーなどと意見交換をしました。その中で、政府の原発推進に反発する世論は、かなり強いのではという印象を持ちました。

質問に答える橘と菅顧問

小泉元総理も最近は脱原発発言をされていると聞いています。また、環境NGOなど市民による建設的な議論がなされ、エネルギー政策の変革を目指すような動きも見られます。これらの動きはどの程度ネットワークされていますか?

 

菅:関係者が各団体の主催する会議にお互いに参加するなど、共通の場で議論するということはやっていますが、組織的に束ねるという機関はいまのところありません。

 

ドイツにはリニューアブル村が出現?

【リニューアル村の出現!?】
ジルビア:日本の脱原発を目指す緑の政治が置かれている状況は、かなり難しいということを私も承知しているつもりです。しかし、変化を起こすにはどの国においても勢力を結集すること。同じ想いの人たちをネットワーク化することが非常に重要です。ドイツにおいても「原子力ムラ」はあります。この非常に権力の強い存在に対して対抗していくには、こちら側でも力の結束、ネットワーク化というものを進めなければならない。ドイツでも大変長い時間かかりましたが、環境NGOやメディア関連、政治関連、企業関連の人たちの力を結束させることによって、再生可能エネルギー産業を急成長させることができました。いわば「リニューアル村」の出現です。原子力ムラのように財力はありませんが、関係者が力を束ねることで社会に対する相当な影響力を持つことができるということを、ドイツは経験しています。

 

小選挙区制度に問題がある

菅:脱原発の政治勢力を結集できない原因に、わが国の選挙制度の問題があります。特に衆議院選挙では6割ぐらいが小選挙区で比例的な選び方の要素が少ないので、原発に反対する政党がまとまれず、結果として票が割れて議席につながりませんでした。かつて、イタリアではプロディ元欧州委員長などがやった「オリーブの木」という、野党が小選挙区では候補者をひとりに絞って政権交代を実現したという成功例がありますが、まだわが国では原発に関してそういう動きは出ていません。

 

再生可能エネルギーへの移行を

【脱原発勢力を結集して新しい枠組みを!】ジルビア:「オリーブの木」というのは、とてもいいキーワードのように私にも思えます。そのような形で力を結束させる。あるいは「統一名簿」を作る。選挙協力をするなどのアプローチが取れれば、国会における脱原発勢力の結集にも有意義ではないかと思います。安全性を考えた際に国民にとって脱原発というのは大変重要なテーマですから。またドイツの経験から「再生可能エネルギーへの移行」は経済のためも非常に大きなチャンスを持っていますので、その辺りの力の結束ができればいいと思います。

固定価格買い取り制度について議論

菅:わが国でも、福島原発事故の後に「固定価格買い取り制度(FIT)」を導入して、再生エネルギー産業は急速に発展しています。私が顧問を務める自然エネルギー研究会でも脱原発や自然エネルギーに関わる人たちのネットワークを作ろうとしています。我々がいまやらなくてはならないことは、多くの原発に反対する人々の声を国政の場できちんと反映できるような新しい枠組みを作ることです。それについて、ドイツ緑の党の経験を学ばせてもらいたいと思っています。また意見交換する機会を持ちましょう。ありがとうございました。

 

ドイツ連邦議会にて

プロフィール:ジルビア・コッティング=ウールさん。1952年生れ。2005年からドイツ緑の党連邦議会議員。気候変動や核・原子力問題など環境政策全般に関する緑の党のスポークスパーソン 。2003年に緑の党バーデン・ヴュルテンベルク州代表に就任。教育、移民や失業問題などに取組む。※みどりの1kWh(ドイツからの風に乗って)「緑の党連邦議会議員 日本滞在記の日本語訳全文 その2

 

 

« 最新情報 トップへ戻る