リニューアボー 自然エネルギー政策研究所 Institute for Renewable Energy Policies

2012年3月の記事

「マグ水素」で実現するエネルギーの地産地消


水素には様々な可能性がある。水素をエネルギー源とする燃料電池の普及が加速していることだけでなく、水素はあらゆる化学燃焼の中で単位質量あたりの発熱量が最大(33キロワットアワー/キログラム)で、天然ガスの2.4倍、ガソリンの2.7倍もある。また石油や石炭、ガス、木炭など炭化水素系の燃料はすべてが水素化合物であるため、水素を起点にしてエネルギー社会全体を見直せる可能性もある。特に、日本では古くから水素の研究開発が続いており、今もいくつかの分野で世界トップレベルを維持している。今回は、その中でも水素吸蔵合金の分野で先駆的な取り組みを続けるバイオコーク技研株式会社の上杉浩之代表取締役を取材した。

 

 

E.U.ワイゼッカー博士との出会い

上杉氏が環境問題に取り組むきっかけとなったのは、今から18年前、52歳の時にE.U.ワイゼッカー博士の「地球環境政策」という本を読んだことだった。本の中では、アメリカニューヨーク州のビッグムース湖が、流域から流れ込んだ硫黄によって死の湖に変容した過程が書かれていた。湖には、工場から排出された石炭燃焼ガスの硫黄が毎年350万トン流れ込んでいた。それでも50年間は酸性にならず生態系を保ってきたが50年経って急激に酸性化し、死の湖に変わったと言う。「同じことが、地球全体のCO2についても起きるのではないかと考えました。私の勤めていた鉄鋼産業の川崎製鉄㈱(現、JFEスチール㈱)は、大量にCO2を排出する業種です。そう考えたら居ても立ってもいられなくなりました」と上杉氏は語る。

 

「マグ水素」開発への道のり

上杉氏は川崎製鉄在籍中から環境関連の研究や提案を始めた。2002年、定年退職と同時に環境省に「グリーン水素社会の構築」を提案して研究開発の委託が決定した。その委託機関として早稲田大学の環境総合研究センターが決まり、当研究センターの客員研究員となって代替エネルギーの研究を続けた。そして、2006年3月の64歳で各界の協力を得て、現在の会社を起業した。会社を設立した後も環境省や経産省、北海道大学、九州大学、東北大学、早稲田大学、日本医科大学などとの共同研究が続いた。そんな中で確立されて来たのが、社名ともなっているバイオコーク(植物バイオマスから作るコーク=炭素担持炭化物)やバイオチャー(バイオマス炭化物)の製造技術であり、そこから水素を取り出し、マグネシウムに吸蔵させる「マグ水素(日本国特許、国際特許出願済で米、韓国で査定、その他各国で審査中)」、そこから効率的に水素を取り出す「加水分解」の技術などだった。「マグ水素」のテクノロジーは、こうした様々な技術が組み合わさってできている。

 

mgH2 マグ水素

小杉氏が開発したマグ水素の小片。右が水素吸蔵前、左が水吸蔵後。

 

安全に貯め、使える「マグ水素」の技術

水素を容積率で効率良く貯蔵する技術には3つの方法がある。圧縮、液化、吸蔵だ。現在、燃料電池車の実用化に向けて自動車メーカーなどで開発が進んでいるのは圧縮で、700気圧(70MPa)の超高圧にした水素をタンクに詰める方法だ。上杉氏は、水素をマグネシウムに吸蔵させる技術の利点をこう語る「圧縮による輸送はタンクが非常に高圧になるため、常に暴発の危険性と隣り合わせです。液化水素にするには冷やし続けるのが大変です。マグネシウムに吸蔵させる方法は、最も安全でリサイクル技術が確立すればコストも安い」。確かに、700気圧という超高圧縮は、いくら丈夫なタンクを作っても交通事故やパイプの継ぎ目などが劣化して、高圧の水素漏れが起こる可能性がある。液化に関しては、水素をマイナス253度まで冷やさなければならず、冷却に膨大なエネルギーが必要な上、液化水素の温度が上昇した時は沸騰して大気に放出され、事故に繋がる恐れもある。最も安全性が高いのは吸蔵で、吸蔵合金からの水素放出は低圧で比較的穏やかなため、水素漏れ等による事故の発生も抑性される。従来は吸蔵させる金属の重さがネックだったが、上杉氏らが開発した技術がそれをクリアした。

 

マグネシウムには、重量で7.6%の水素を吸蔵させることができる。上杉氏が開発した「マグ水素」の小片26gの中には、2g、約20リッターの水素が入っている。また、この水素を利用する際には、水を加えて加水分解を行い、水の中の水素も併せて使うため約40リッターの水素を使うことができる。これは燃料電池に換算して約80ワットアワー(10Wの電球を8時間つけられる)に相当する。

 

 

例えば、燃料電池自動車を100km走らせるのに必要な1㎏の水素を発生させるには、マグ水素6.5kgと水を搭載することになる。500キロ走るには32.5kgのマグ水素と水を積めば良い。課題は、反応させる水の量が今のところ、重量率でマグ水素1に対して水6程度が必要で、自動車に積むにはこの量を3以下にする必要があること(理論的には1.38である。)と、マグ水素を連続的に投入する技術だが、これらの開発には少なくともあと数年の開発期間が必要だと言う。最大の課題はやはり生産コストだろう。上杉氏によれば、年間数万トン生産ユニットを生産するレベルになれば、環境コストを考慮して経済性は評価されるだろうということだった。

 

「マグ水素」で可能になるエネルギーの地産地消

上杉氏が考えている構想は、①木質系、草本質系、海藻などの有機質を熱分解して「チャー」(炭化燃料)と「パイロガス」(※)にし、②そこからさらに水素を分離して、その水素をマグネシウムに吸蔵させ「マグ水素」MgH2にする。③この「マグ水素」は危険物ではないため、安全に利用する場所へ輸送し水素源として使用する。④水素を使い終わって残った水酸化マグネシウムMg(OH)2は、直流水素プラズマ炉で再びマグ水素に還元(この技術は今後、実証して行く計画である)して再利用できる他、そのまま工業用原料や食品添加物、医薬品、肥料、半導体機器の封止剤などに使ったり、CO2の固定に使うこともできる。

 

ここで考えられているのは、水素(エネルギー源)とマグネシウム(媒体)を軸にして、エネルギー循環を行うシステムだ。こうすることで、植物バイオ(山の幸)とマグネシウム(海の幸)と自然エネルギーだけでエネルギーの地産地消を行うことができる。上杉氏は、この他にも「バイオリキッド」という木材からA重油並の炭化水素燃料をつくる技術開発(特許出願済み。)も行った。「木質バイオマスを全量燃料にするパイロコーキング」技術で平成21年度の環境大臣賞も受賞している。現在は山に捨てられている間伐材などバイオマスが、石炭に代わる「バイオコーク」、石油に代わる「バイオリキッド」、そして「マグ水素」と言った立派なエネルギー資源として活用できるようになる。つまり植物資源の多い日本の山間部が良質なエネルギーの生産拠点に変わる可能性がある。非常に夢のあるこうした技術の実用化に期待したい。

 

 

 

※パイロガス:

バイオマスを低温(500~600℃)で乾留(酸素を絶って)すると、チャー(炭)とパイロガス(乾留ガス)が得られる。このパイロガスには有害で取り扱いが困難なタールが含まれている。この有害なタールを次のプロセスであるコーカー炉で分解して、バイオコークとタールフリーガスに変換する。

自然エネルギーの安定化に役立てたいNAS電池

 

風が止めば風車は止まり、暗くなれば太陽電池は発電しない。そう、自然エネルギーのウィークポイントと言われているのが出力の変動だ。この出力を安定化させるために注目されている技術の一つが大容量の二次電池(蓄電池)だ。

 

中でも、NAS電池は鉛蓄電池に比べて体積・重量が3分の1程度と小さく、揚水発電と同様の機能を都市部などの需要地の近辺に設置できる利点がある。一カ所あたり数千から数万キロワットという大規模な蓄電と、連続6時間の放電が可能だ。現在量産化されている二次電池の中では圧倒的な性能を持つ。

 

NAS電池の仕組みと利用法

NAS電池は、電極にナトリウム(Na)と硫黄(S)を使用していることから名付け(日本ガイシの登録商標)られた。原理そのものは、1967年に米フォードモーターズが発表し、米国、欧州、日本で産学の研究開発が続いたが長い間実用化には至らなかった。日本ガイシは1984年から東京電力との共同開発に着手。2002年度より唯一実用化に成功していた。電解質にβ-アルミナと呼ばれるセラミックを利用し、高温(摂氏300~350度)にすることで作動する。日本ガイシの高度なセラミック技術が開発の決め手となった。

 

NAS電池は、従来国内では非常用電源などとして用いられてきたが、海外では風力発電や太陽光発電の電圧変動の抑制などに用いられて来た。米テキサス州では4メガワット(1メガワットは100万ワット。100ワットの電球を1万個付けられる電力)、アブダビでは48メガワットなどの導入事例を持っている。

今後は国内でも、再生可能エネルギーなどによる電圧変動の抑制やピークカットの技術として注目を浴びそうだ。

 

日本ガイシ株式会社小牧事業所のNAS電池工場を視察した際の写真。 右が橘民義自然エネルギー研究会代表。中央は菅直人前総理、中央右は加藤太郎日本ガイシ株式会社代表取締役。

デンマーク新政権、2050に再生可能エネルギー100%を実現する具体案 Our Future Energy を発表

デンマークは、2011年9月に行われた総選挙で、野党だった社会民主党が勝利を収め、ヘレ・トーニング・シュミット氏が初の女性首相となった。新政権は、同年11月、中長期的な国家エネルギー計画である「Our Future Energy」を発表した。

 

同計画は前政権が2011年2月に発表していた「Energy Strategy 2050(エネルギー戦略2050)」を基にしている。これは、2020年までにエネルギー産業の化石燃料利用を2009年比で33%削減する短期的な目標を設定し、エネルギー総消費量に占める再生可能エネルギーのシェアを、2050年に100%を実現する方針を決めたものだ。(デンマークでは、再生可能エネルギーのシェアが1980年には約3%だったが、2004年には、14%にまで伸ばすことに成功した実績を持つ)

 

 

「Our Future Energy」では、新たな方針として、2030年までに石炭火力発電所を段階的に廃止すること、国内使用電力の50%を風力エネルギーで供給すること(それができた場合には2035年までに電気・熱を再生可能エネルギーで100%供給可能であるという試算も示した)、2020年までに温室効果ガス排出を1990年比で40%削減することなどを示した。また、石油価格が予想を超えて上昇した場合、省エネと再生可能エネルギーへの移行は、さらに大きなメリットを生み出す可能性があるとの予測も合わせて示した。

 

 

“Our Future Energy”における新政権の主な目標は以下の通り。

①   2050年に100% 再生可能エネルギーで賄う

②   2035年までに電力と熱供給は100% 再生可能エネルギーで賄う

③   2030年までに石炭を段階的廃止

④   2030年まで石油燃焼ボイラーを段階的廃止

⑤   2020年における電力消費量の半分を風力で賄う

⑥   2020年における総エネルギー消費量の36%は再生可能エネルギーで占める

⑦   2020年における運輸部門の少なくとも10%は再生可能エネルギーで占める

⑧   2020年までに温室効果ガス排出を1990年比で40%削減

 

新政権は2020年までの計画実施のためのコストとして56億クローネ(約784億円)を要求した。

 

デンマークでは、中長期のエネルギー計画については野党も含めた政党間合意を行うことが慣例となっている。しかし、この合意に向けた政党間協議においは、与野党間で激しい対立が続いてた。野党からの強い反発に応じ、新政権は当初想定していた56億クローネから46億クローネ(約644億円)に削減した。しかしながら、野党側(自由党及び保守党)は依然不十分として36億クローネ(約504億円)まで下げるよう求めた。

 

 

資料:在デンマーク日本大使館

デンマーク気候•エネルギー•建設省 プレスリリース
New Danish energy agreement: 50 % of electricity consumption from wind power in 2020 28-03-2012 

 

畑でつくる太陽光電力「ソーラーシェアリング」

太陽光発電の切り札となるか
自然エネルギーのなかで今、最も注目されているのが太陽光発電。少し前までは発電コストで風力に敵わなかったが、中国など新興国メーカーの参入で急激に価格も安くなり採算性が合うようになって来た。今年7月の「固定価格買取制度」開始で、急激に市場が拡大する可能性があるのも太陽光だ。太陽光発電は他の自然エネルギーに比べ、システムが小さくて済むため誰にでも始められる利点もあるからだ。

 

太陽光発電で最大の課題は設置場所の確保だ。現在の主流は家庭や工場、店舗などの屋根と、広大な敷地に大量の太陽光パネルを並べるメガソーラーだが、この二つだけでは日本の電力の10%が目標というレベルだ。休耕田や耕作放棄地を利用する案もあるが、これらはもともとアクセスの悪い土地が多く根本的な解決策とは言えない。

 

CHO研究所所長の長島彬氏が実証実験を続ける「ソーラーシェアリング」はこうした課題を一掃する可能性を持つ。当研究会では、千葉県市原市で行われている実証実験を取材した。

 

実証実験場に設置されている4.5キロワットの1号機。昨年の大型台風にも耐えた。

 

ソーラーシェアリングの仕組み

「ソーラーシェアリング」とは、太陽の光を農地の作物と太陽光発電とでシェアする仕組みで、2003年に長島さんが特許を出願。現在では多くの人に使ってもらいたいと無償で公開されている長島氏によれば、植物は一定量の光があれば育ち、それを超える量(光飽和点)の太陽光は植物にとってストレスとなり、成長を阻害する因子となる。多くの植物は「ブナの林の中のような明るい木漏れ日の状態」(長島氏)が望ましいのだそうだ。そこで、生育に必要な分を除いた、余剰の太陽光を発電に使うのがこの仕組みだ。具体的には、農地の上に、足場用の単管パイプを使用してフジ棚のような構造物を設け、四分の一程度の面積になるように、スリット状に太陽光パネルを設置する。実験の結果、収穫に影響はなく、作物によっては収量が増えたと言う。夏の間の水やりも減らすことができるメリットもあるそうだ。設置やメンテナンスも高所で勾配のある屋根よりずっと簡単だ。

 

ソーラーシェアリングの可能性
しかし「ソーラーシェアリング」の最も重要な点は、これが農家の新たな収入源にもなることだ。長島氏によれば、農家が農地1反(約1000平米)あたりで得られる収入は年間6~10万円程度だが、「ソーラーシェアリング」では同じ面積で100万円にもなる。つまり農家は電力料金という安定した収入を得ながら、新しい品種に取り組んだり、経営を多角化することができる。それが可能であれば、農家の後継者不足や自給率低下の解消も夢ではなくなって来る。
農地に太陽光パネルを設置すると農地として認められなくなり税金の優遇策がなくなるのではないかとの不安もあるが、長島氏が国に確認したところ、地面が耕作可能な状態であれば農地と認められ、農地転用の必要もないとのことだ。

太陽光パネルの間隔を変えて、作物の生育状況を観察している。

長島氏の計算によれば、日本で使用される電力量をすべて太陽光発電で賄うには、現在の発電効率で凡そ100万ヘクタール(100キロ四方)の農地が必要で、これをソーラーシェアリング(仮にソーラー1:農地2の割合として)で行うその3倍の面積300万ヘクタールということになる。現在、日本全体の農地は約460万ヘクタール(最盛期は約600万ヘクタールだった)なので、現状の技術でも農地だけで全ての電力を賄える計算だ。

 

この仕組みの良いところは、新たな技術的な課題がないことで、7月の固定価格買取制が実施されれば、農家が1反あたり250万円程度の設置費用を負担または借入できれば直ぐに始められることだ。

 

課題としては、対象が農地であるため、送電線がない場所では新たに設置をする必要があること。国内メーカーの家庭用太陽光パネルは、住宅の屋根での設置を前提としているため農地では保証が受けられないこと(このため、長島氏の実証2号機は中国製のパネルを使用)、また設置のための補助金は屋根に設置することを想定しているため農地は対象にならないことがある。しかし、農業への膨大な補助金を考えれば、農家の自立にもつながるこの仕組みを政策的に進める利点もあるのではないだろうか。自然エネルギーへの転換イメージが具体的に描けることも、この仕組みの魅力と言えるだろう。
(2012年3月13日)

行政職員にソーラーシャエアリングを解説する長島氏(中央)。

菅直人顧問に聞く 自然エネルギー研究会にかける思い

当会発足にあたり、顧問となった菅直人前首相に研究会の方向性と抱負について語って頂きました。

 

<原発事故が活動の方向性を決定づけた>

 

 

私はかなり古くから自然エネルギーには関心がありました。

 

例えば1980年頃、一年生議員の時にアメリカの風力発電のテスト・センターを視察したり、この10年くらいはバイオマスの施設を視察したりしていました。今回自然エネルギー研究会の顧問として積極的に参加しようと思ったのは、そうした古くからの関心もありますが、何と言っても、昨年3月11日の原発事故を経験したことで今後の私の活動の方向性が決まったからです。

 

菅直人

菅直人顧問

原子力発電所については、総理としても政治家個人としても3.11までは安全性を確認して活用して行くと言う立場でした。しかし、原発事故を体験して、技術的にどこまでやっても安全とは言えない。つまり原発が無くても良い社会をつくることが、最も安全なことだと考えるようになりました。原発に依存しなくても良い社会をつくるには、再生可能な自然エネルギーで必要なエネルギーをまかなって行くことが条件になります。それを進めるのが3.11の事故を経験した私の役目だと考えました。

 

総理退任後、多くの皆さんの協力を得ながら様々な活動を続けた結果、今回自然エネルギー研究会が立ち上がることになり、私も中心メンバーの一人として顧問という形で参加をすることになりました。

 

<自然エネルギー研究会に望むこと、やってみたいこと>

 

実は総理在任中から、再生可能エネルギーの推進はスタートしていました。特に大きかったのは、いわゆる再生エネルギー促進法案、固定価格買取制度(FIT:Feed-in Tariff)の法案を昨年8月、総理としての最後の仕事として通過させたことです。これによって、政策的にも再生可能エネルギーを従来の原子力エネルギーや、場合によっては化石燃料に代わって、主要なエネルギー源とする方向性がスタートしました。そうした中で自然エネルギー研究会としては、次の3つの分野の活用が必要ではないかと思っています。一つはFITを軸にして再生可能エネルギーを増やしたり、エネルギーの基本計画などについても従来の原子力に偏重したものを見直すといった政策的な分野での推進。二つ目は、自治体や企業やNPOなど色々な人達がこの問題に積極的に関わっている中で、それを応援したり一緒になって進める実践についても、小さい組織ながらも力を尽くしたい。三つ目は国の内外に対する発信です。

 

福島原発事故があったにも関わらず、世界ではまだ沢山の原発を新設する動きが続いています。今回の事故の直接の原因は地震と津波でしたが、テロとか内戦、戦争といった理由で、原発が破壊されることもあり得る訳です。また、高レベル放射性廃棄物の問題は国境を越え、世代も超えた問題です。こうした観点から、世界の流れを脱原発依存の方向に持って行く必要があると考えます。こうしたことをこの研究会を一つのベースキャンプとして進めて行きたいと思っています。自然エネルギーの分野は太陽光発電や風力発電、バイオマス、発送電分離や電池、さらには、普及して行く上で超えて行かなければいけない技術的、社会的な課題があり非常に広範囲です。研究会では一つのテーマを深く掘り下げると言うよりも、自然エネルギー全体を網羅的に扱うことになると思います。ただ、そうした中でもポイントとなるような技術や仕組みについては、顧問としても積極的に提案して行きたいと思います。

 

※具体的な提案については、「菅直人の自然エネルギー提案」をご覧下さい。

菅直人の自然エネルギー提案 第1回

<自然エネルギーを水素に変えて活用する大胆な試み>

 

デンマーク視察

デンマーク視察時の写真。H2の看板が水素を表現している。

デンマークでは70年代に原子力発電所を造るという政府の案に対して大議論が起き、最終的には原子力発電所は造らないで、自然エネルギーを積極的に進めるという決定を議会が行いました。

 

私は今年の1月にデンマークを視察したのですが、その時特に私の関心を引いたのは、風力発電所で出来た余剰の電力を使って水を分解して水素を作り、その水素をパイプで各家庭に送り、小型燃料電池を使って電気と熱を発生させるシステムでした。まだ実験的な段階ですが、街単位で再生可能エネルギーから水素をつくり、それを利用するという意欲的な試みでした。

 

私がびっくりしたのは、これまで水素という物は爆発性が高いという事で、扱いにくいとされて来たのが、身の回りでも使えるということでした。これまでも天然ガスとかプロパンガスは家庭でも使って来たのですが、水素は私が見た中では初めてだったんです。

 

従来から自然エネルギーの問題点とされて来たのは、風とか太陽といった自然条件にエネルギーの発生量が左右されるので、原子力発電などに比べて安定的にエネルギーを供給することが難しいと言うことでした。これをクリアするために様々な電池や揚水発電などの手段が検討されていますが、風力や太陽光などの自然エネルギーを一旦水素に変えて、それを大量に蓄え、安全で効率的に輸送することができれば、極めて大きなブレイクスルーになります。

 

水素の活用そのものは、燃料電池の燃料などとして既に始まっています。我が国では九州大学の水素エネルギー国際研究センターなどで水素の活用を研究していて、私も4、5年前に直接行ってお話を伺いました。最近ではトヨタ自動車なども水素を用いた燃料電池車の実用化に向けて積極的に研究を進めていると聞きます。現在、こうした水素は石油や天然ガスなどからつくられるものが主ですが、将来これを自然エネルギーに置き換えて行くことも可能です。そうした意味で、水素というものに非常に可能性を感じています。

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